山本玲子プロフィール
誕 生
私がこの世に生を受けたのは明治時代と思う方もいらっしゃるようですが、昭和の時代になります。昭和32年5月、庭の草がやわらかに青める頃でした。
両親は盛岡の出身ですが、父の仕事の関係で岩手県八幡平市に暮らしておりました。二人の兄がおり、小学校1年生だった上の兄は、学校から走って帰って来て、妹の誕生をとても喜んでくれたそうです。3歳年上の次兄はおとなしく、親離れも悪く、泣きながら幼稚園に通っていた頃でした。こうして両親と二人の兄の愛情を一身に受けて育ちました。
父の転勤に伴い、岩手県北地方や大船渡市で暮らし、その土地の風土、慣習に出会ったことが、後に私が民俗学に関心を抱くきっかけとなり、明治の時代を生きた啄木の世界にもつながっていくことになります。
学生時代~岩手県立博物館時代
知らず知らずに「幸福」を追求していた私は福祉の道を選び、東北福祉大学に入学しました。が、大学の授業とは別に、ひとり幸福を追求する日々を過ごしておりました。
大学卒業後は「もっと勉強したい」という思いがありました。
ちょうど岩手県立博物館が開館する年で、幸運にも就職することができ、岩手の歴史、民俗、文化芸術、自然について学ぶ機会を得ることができました。とにもかくにもあらゆることに興味を抱き、多くの事を吸収しました。
また、同館の民俗研究家の門屋光昭先生のご指導のもと、休日を利用して県内の民俗調査に携わりました。そこで知り得た事象をエッセイにして、地元新聞紙上に発表。後に『花と香りと女の暮らし』という一冊の本になりました。特にも年中行事、麻の民俗、稗の民俗を研究し、男性の陰になって見えない女性の民俗に視点を当て、庶民の歴史の中に、長い間、探し求めていた真の幸せを見い出すことができました。
財団法人 石川啄木記念館時代
平成2年1月から財団法人石川啄木記念館に学芸員として勤務しました。民俗学的視点を活かしながら、啄木の世界を解明することにいつしか喜びと楽しみを見い出していました。また、啄木研究の第一人者で、『石川啄木全集』を編集した岩城之徳先生から啄木研究上のご指導をたくさんいただきました。
この間に、エッセイ「娘義太夫の夢」で岩手日報文学賞「随筆賞」を受賞(平成4年7月)。平成8年1月~12月、啄木生誕110年記念企画としてNHK盛岡放送にて、「啄木歌ごよみ」を放送。啄木が願っていたように、文学本位の文学から一足踏み出し、人民の中へ入るきっかけとなりました。
平成11年7月、友人たちの企画で、啄木と結婚式を挙げ,著書『拝啓 啄木さま』が引き出物となりました。参加された方々を喜ばすこと、ただそれだけを「よし」と思った私でした。
平成18年の啄木生誕120年には、岩手日報夕刊に「啄木うた散歩」を連載し、啄木の歌に私自身の日常の生活を重ねたエッセイにより、啄木を現代に甦らせる試みをいたしました。
平成24年に啄木没後百年を迎え、その記念事業に携わりました。例えば、特別展「啄木を愛した作家たち」の開催や陸前高田市に歌碑を建立すること、全国の啄木ゆかりの地による啄木サミットの開催、記念誌の発行などです。それと並行して財団法人石川啄木記念館の解散を控え、資料整理に追われる日々でした。
平成25年11月30日、法人法の改正に伴って、24年間勤めた同館の扉を開け、風に乗じて天涯に去ったのでした。
啄木ソムリエとして
「啄木は林中の鳥なり。風に随つて樹梢に移る」と述べていますように、私も平成25年12月からフリーの立場で全国津々浦々を飛び廻り、講演、講座、執筆、ラジオを通して啄木の魅力と感動を伝えるべく活動をしております。
平成26年4月12日の函館啄啄木会主催の講演会では、啄木の日記をテーマに、ドナルド・キーン先生と夢の対談を実現することができました。その翌日、NHKラジオ深夜便で、啄木ソムリエになるまでの経緯と現在の活動についてお話いたしました。同年7月13日には仙台文学館主催の「ライブ文学館」で、啄木の手紙をテーマに新井満さんと対談し、啄木の人間としての魅力をお伝えいたしました。
今、啄木の音楽への関心に新たな視点を当てております。
また、啄木が訪ねた場所を実際に訪ね、歩いた道を辿り、啄木と同じ風景を見ることによって、新たな啄木を発見し、それに無上の喜びを感じています。
啄木の魅力は何か、とよく問われることがあります。啄木の作品に魅力があることは申し上げるまでもなく、さらに私が啄木にひかれる所以は、啄木を知ることによって私自身を、そして人間を知ることができること、そこにあります。
これからも、啄木と共に人間研究をしながら真の幸福を追求していきたいと思っております。
☆ 山本玲子 著書 ☆
●『花と香りと女のくらし』(昭和62年5月 岩手出版)
●『啄木の妻・節子』(平成5年4月 緑の笛豆本の会)
●『啄木歌ごよみ』(平成8年5月 財団法人石川啄木記念館)
●『拝啓 啄木さま』(平成11年7月 熊谷印刷)
●『夢よぶ啄木 野をゆく賢治』(牧野立雄氏と共著 平成14年6月 洋々社)
●『啄木と明治の盛岡』(門屋光昭氏と共著 平成18年8月 川嶋印刷)
●新編『拝啓 啄木さま』(平成19年11月 熊谷印刷)
●絵本『サルと人と森~石川啄木のエッセイより』(平成21年3月 NPO法人森びとプロジェクト委員会)
●『啄木うた散歩』(平成22年2月 盛岡出版コミュニティー)。
☆ 山本玲子 論文・報告書等 ☆
●「稗の民俗」葛巻町小屋瀬の民俗①『岩手の民俗 第4号』(昭和58年10月 岩手民俗の会)
●「岩手県年中行事」『角川日本地理辞典』(昭和60年3月 角川書店)
●「麻の民俗」葛巻町小屋瀬の民俗②『岩手の民俗 第5、6合併号』(昭和60年10月 岩手民俗の会)
●「盛岡の年中行事とわらべ唄」『岩手の民俗 第5、6合併号』(昭和60年10月 岩手民俗の会)
●「樹木と花をめぐる民俗」『岩手の民俗 第7号』(昭和62年6月 岩手民俗の会)
●「三陸町の衣生活・食生活」『三陸町史(民俗編)』(昭和63年3月 三陸町)
●「玩具」『いわての手仕事』(昭和63年8月 岩手県文化財愛護協会)
●「盛岡藩の操師 鈴江四郎兵資料について」『岩手県立博物館研究報告』(昭和63年8月 岩手県立博物館)
●「櫛と女性」『岩手の民俗第8、9合併号』(平成1年12月 岩手民俗の会)
●「ダム水没地区の衣とくらし・食とくらし・人生儀礼」『早池峰ダム水没地区報告書』(平成2年3月 岩手県落合ダム建設事務所・大迫町)
●「紫根染め」「南部凧」等7項目『岩手県の諸職』(平成3年3月 岩手県教育委員会)
●「啄木と太田駒吉」『国際啄木学会会報 第6号』(平成4年10月 国際啄木学会)
●図録「詩人[啄木]生誕90年」(平成5年5月 石川啄木記念館)
●「啄木の妻の悲しき生涯--石川節子にみる苦悩の日々-- 」『日本研究第9輯』(平成6年2月韓国 中央大学校・日本研究所)
●「住田町の衣生活・食生活」『住田町史第6巻<民俗編>』(平成6年3月 住田町)
●久慈市山根六郷の「衣とくらし」「おんなわざ」『山根風土記』(平成6年3月 山根六郷研究会)
●「石川啄木記念館と渋民」『国文学 解釈と鑑賞』(平成6年10月 至文堂)
●図録「書簡でつづる啄木の生涯」(平成6年10月 石川啄木記念館)
●「北上川流域の伝説」『北上川水系農業水利誌』(平成7年3月 農林水産省東北農政局)
●「心に輝くノスタルジア<渋民・盛岡>」『短歌』(平成7年4月 角川書店)
●図録「啄木と岩手日報」(平成7年7月 石川啄木記念館)
●図録「啄木と釧路」(平成8年6月 石川啄木記念館)
●「見前田植踊」「三本柳さんさ踊」『岩手県の民俗芸能--岩手県民俗芸能緊急調査報告書--』(平成9年3月 岩手県教育委員会)
●図録「啄木と芸能」(平成9年7月 石川啄木記念館)
●「石川啄木の生涯」「節子—その愛のかたち」『啄木歌集カラーアルバム』(平成10年1月 芳賀書店)
●「葛原対月」「娘義太夫」等5項目『石川啄木事典』(平成13年9月 おうふう)
●「啄木と『スバル』--短歌から小説へ--」『東北文学の世界 第12号』(平成16年3月 盛岡大学文学部日本文学科)
●「啄木と俳句--啄木短歌が明治の俳人に与えた影響--」『東北文学の世界 第13号』(平成17年3月15日 盛岡大学文学部日本文学科)
●図録「啄木をめぐる女性たち」「仄かな恋を」『ザ・啄木展―啄木生誕120年4館共同企画』(平成18年8月24日 啄木・賢治生誕記念事業実行委異界)
●「生き急いだ26年の生涯」「啄木の妻・節子―海に似る眸の君のせて」「啄木の好きなもの」「女教師 橘智恵子」「芸者 小奴」『別冊太陽 石川啄木』(平成24年5月24日 株式会社平凡社)